──御社はエンタメ分野の本に実績があるそうですね。
築地亜希乃 弊社は20代半ばから40代まで8名のスタッフで、書籍の装丁やブックデザイン、エディトリアルデザインを中心に制作をしています。全員が本が好きなことはもちろんですが、漫画やアニメ、映画やドラマなどエンタメが好きな人が集まっています。私は新卒で入社して12年ほど、気がつけば一番の古株です。
村山百合子 私は中途採用で入社し、現在10年くらい在籍しています。書籍に限らずさまざまな分野のデザインを自分の好奇心で摂取し、それが仕事につながっていくというパターンが多いですね。当社は、多岐にわたるジャンルを手がけていて、それがとても自分の性に合っています。小説もあればビジネス書、実用書もやる。ひとつのジャンルにこだわらず、様々なものをやっていくことで、新しい気づきも生まれますし、相互によい刺激になります。
築地 社内は結構にぎやかで、仕事中も「最近見ておもしろかったもの」などの雑談が多いのですが、それが後日仕事につながってくることも多いです。各々の好きなものが違うので、知らずしらずのうちにエンタメ全般の流行を踏まえられるようになっています。
村山 この情報の共有と蓄積はとても大きなアドバンテージになっていることを実感します。ひとりでは限界のある知識の範囲が、8人いることで8倍以上に広がります。しかも、この8人は業務としてリサーチしているだけでなく、「好き」という感情でそれぞれのジャンルを受け手としても楽しんでいる。これは制作物にいい影響を与えていると思います。
築地 イラストレーター選定のときなども、「このテイストならこんな人を知っている」といった情報を同僚同士で交換できるのは、会社という組織でやっている強みですね。自分の知識や幅もどんどん広げられますし、同僚の制作姿勢を見て自分の仕事に活かすこともできます。

デザイナーの築地亜希乃さん

書棚にはこれまでブックウォールで装丁を手がけた書籍が並ぶ
──1冊の本を出すにあたり、どれくらいの時間がかかるのでしょう?
築地 本によりますが、おおよそ1〜2ヶ月でしょうか。緊急出版的なものになると1週間くらいでつくってしまいます。新書などは短いですし、半年~1年くらい前から少しずつ仕込んでいく本もあります。
村山 つねに20〜30冊くらいを同時進行しているため、1日に数冊分のラフをつくることも。スケジュールを組み立てる力が求められますね。
築地 原稿や素材が予定通りにいかず、当初組んでいたスケジュールが遅れ、ほかの本と大詰めの時期が重なってしまうようなときにどう乗り切るか、というときもあり、大変ですけどやりがいがあります。
──書籍に関するデザインについて、普段どのようなことに気をつけていらっしゃいますか?
村山 本のデザインって、発注の段階でやりたいことや方向性が明確に決まっていることもあれば、どのように売ったらいいか模索している段階の場合もあります。後者の場合は売り方を一緒に考えながらデザインを提案します。編集者と併走して、言語化できない「やりたいこと」をこちらから引き出すよう心がけています。
築地 編集者や著者は、携わっている本について一番詳しく読み込んでいます。だからこそ、客観的に見ることができないこともある。だから、私たちは現在のデザインやそのジャンルの流行なども踏まえて、編集者や著者とはことなる視点で「こういうところを打ち出したらもっと売れるんじゃないか」といった提案をします。
村山 編集者や著者も、私たちの提案力に強く期待してくれていると感じます。だから、弊社はかなり多めにラフを提出します。編集者からもラフの量を期待してもらっていることが多いですね。たんにバリエーション勝負ということではなく、むしろ、「売り方の提案」をたくさん提供することに近いかもしれません。デザインの切り口が変われば、ターゲットや売り方も変わってきますから。
築地 ラフを見た編集者が「自分はこのように売りたかったんだ」とあらためて気づくようなこともありますね。
村山 出版社内の部数決定会議で、デザインを出したことで予定部数が増加した、というお話もうかがっています。部数が増えると、社内で「売ろう」という機運も高まる。営業の人がより一層動いてくれるし、書店の展開にも影響してくる。書籍デザインは「デザインによって人の動きが変わる」ことがダイレクトに見える仕事だと感じています。

デザイナーの村山百合子さん
築地 あとは、書店でお客様に「手に取ってもらえる」本であることを意識してデザインしています。 書店で人が本を見る時間って「1秒もない」と言われて いるんですよ。まさに一瞬。その一瞬で目を留めてもらえるかが勝負だと思っています。
村山 人間は次の行動を0.3秒ほどで決めると言われています。1秒以内で目に留めて、キャッチや帯の売り文句を把握させないと、スルーされてしまう。こうした行動のリズムを前提にデザインしています。とはいえ、装丁は商品そのものの一部でもあるので、所有欲を満足させるような魅力も必要です。ですから、瞬間的なインパクトと、持続的な魅力を両立させることを意識しています。
築地 現在、書店の置かれた状況は非常に厳しいと言われています。けれども、書籍の装丁やブックデザインは私たちが予想していたほどの変化は大きくないのが現状ですが、店頭で本が買える書店が減っていくなか、ウェブで販売する前提で「サムネイル映えすること」も求められるようになりました。
村山 ブックデザインって、ルーティーンの仕事がほとんどないんですよ。1冊ごとに規格も内容も違う。毎回、ゼロからつくり続けることが大変でもあり、面白くもあります。
──村山さんは前職もデザイン会社とうかがいました。デザインという仕事のなかでも、とくに書籍デザインにおいて特徴的なことは何でしょうか?
村山 前職では、百貨店の広告・販促物や美術館などの紙媒体中心のデザインをしていました。広告等は本の装丁と比べると、文字を絵に対して「添える」感覚が強いです。けれども、装丁では、文字が絵と同等かそれ以上に強くあることを求められます。装丁を始めた最初のころは、レイアウトするとタイトルがキャッチに見えてしまい苦労した、ということもありました。
築地 本は帯も含めて「読む必要のない言葉」がないですよね。そして、読ませる順番も重要で、そこをきちんと設計することが求められます。

──そもそも、おふたりはなぜブックウォールに入られたのでしょうか?
築地 私が美術大学を卒業するタイミングで弊社が求人を出していた、というのが一番の理由です。もともと、私は大学でグラフィックデザインを学んでいたのですが、学べば学ぶほど広告方面に興味が湧かないことに気づいてしまった。そこで、自分が好きな分野ってなんだろう? と考えた結果、書籍分野に行き着きました。自分は話すのがあまり得意ではないのですが、提出した作品で評価していただけたのがありがたかったです。
村山 私は子供のころは装丁をやりたいと考えて地方の美大に進学しました。けれども、その土地では装丁を手がける会社がなく、ひとまず前職の会社に入りました。で、その会社がなくなることとなり、あらためて自分のやりたいことを見つめ直していたところ、ブックウォールが募集をしていた、という流れですね。
──おふたりはそれぞれ、どのような書籍を手がけられましたか?
村山 最近の例だと『口に関するアンケート」(ポプラ社)という本で、著者はモキュメンタリーホラージャンルで注目されている方です。115×86ミリメートル という、手のひらサイズが話題になり、ニュースなどでも取り上げられました。このサイズは出版社からの指定だったのですが、ふつうにこのサイズで本をつくっても埋もれる可能性がある。これを書店に置いてもらい、売っていくためには、どうすればよいのか? を考えました。普段から読んでいる読者の方も大切なのですが、本を普段読まない人が手に取らないとヒットまではつながらない。
モキュメンタリーホラーは、フィクションと現実との境が曖昧に感じられるのが魅力のジャンルで、ファンの方は、映像やゲーム、イベントなどを横断的に楽しんだり、感想をSNSなどで発信される方が多い。そういう方に話題にしてもらえる装丁にすることにしました。通常の書籍ではあまり見かけないような写真やフォントの使い方、同人誌的な作りにして、この本が書店に置かれていること自体が、奇妙な違和感になるようなデザインにしました。サイズも含めて、あえて「『商業的な本』らしくない本 」を演出したのです。結果、さまざまな方に話題にしてもらえたと思います。
築地 1冊が小さいことを生かして平台にずらりと並べたり、ブックタワーをつくってみたりと、書店の方も面白がって展開してくれました。
ほかにも、本の装丁がきっかけで、他の仕事につながったこともありました。ヨシタケシンスケさんの『あるかしら書店』(ポプラ社)という絵本があります。弊社が装丁を手がけたのですが、主人公のおじさんがかわいらしく、なんとポプラ文庫の宣伝部長に就任したんですよ。
村山 フェアのときには、このおじさんが登場する特別カバーを巻く企画が立ち上がり、そのデザインも弊社で手がけることができました。
築地 そして、この企画は好評で、デザインをガラリと変えつつ四年間にわたって展開しました。書店を盛り上げるお手伝いができたのが嬉しいですね。このほかにも、角川書店の文庫フェアなど、書店のフェアに関わる依頼も多くいただいています。

装丁を手がけた『口に関するアンケート』(ポプラ社)は、本を普段読まない人が手に取ることを考えてヒットした
──どのような方にブックウォールへ来ていただきたいですか?
村山 本が好きな人ですね。編集者と打ち合わせするので小説は基本、全部読みます。ビジネス書や実用書などは、原稿執筆と制作が同時進行であることが多いので概要を聞きつつデザインすることも多いのですが、それでもやっぱり一部でも読んで、トーンを掴むことが必要です。いろいろなことをおもしろがることができる人だと、仕事が楽しいと思います。あとは提案力ですね。どんな企画でもおもしろいところを探して、さまざま角度から考えて、発想を止めずに出せる力。
築地 ジャンル問わず好きなものが多い方は大歓迎です。自分でなにかしら調べてやっていくことが好きな人が、力を発揮できる場所だと思っています。


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