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2024.01.15
NOSIGNER株式会社

価値をつくる人が報われる社会に。NOSIGNERが推進する、新たな制度とは

ソーシャルデザインやイノベーションデザインという言葉が今ほど一般的ではなかったころから、専門領域を超え、あらゆる「関係」をつなぐデザイン活動を続けるNOSIGNER(ノザイナー)。東日本大震災直後に立ち上げたデータベースサイト「OLIVE」や、東京都が発行するハンドブック『東京防災』など、社会により良い変化をもたらすデザインを提案し続けている。そのNOSIGNERが2020年から始めたのは、デザイン職を優遇する「プロフェッショナル制度」だ。この制度について、代表の太刀川英輔と、デザイン職の社員、水迫涼汰と青山希望に話を聞いた。
文・編集
佐藤恵美
写真
金川晋吾

関係をデザインし、価値を提案する仕事

——商品のパッケージからインダストリアルデザイン、空間や建築の設計、企業のブランディングまで、幅広いデザインを手がけられるNOSIGNERですが、その活動は少し変わっています。2006年にスタートしてから、これまでの経緯を教えてください。

太刀川:ぼくは大学院までは建築設計を専攻していたのですが、「デザインの機能は関係をつなぐことができるのではないか」という考えから、2006年に「関係性」をデザインする運動のようなものをはじめ、2007年にNOSIGNERを立ち上げました。関係性を生み出すデザインに挑戦するにしても、建築は大きすぎるので、まずは等身大のところから実験してみよう、と。たとえば当時は、廃棄物に対する問題提起として使用済みの蛍光灯を使った空間構成を提案したり、食べられるデザインを追求してみたり、デザインの領域を超えて、だれもデザイナーがやっていなかった取り組みをやってみようという実験に取り組んでいました。それからしばらくして、イノベーション創出のための対話の場づくりが重要だと考えるようになって、共創のプラットフォームづくりなどを行っていました。

NOSIGNER代表 太刀川英輔さん

mozilla:世界最大規模のオープンソースコミュニティのオフィス設計

ston:エナジードリンクやタバコに代わり、ひと休みを心身ともに健康なものへと変える吸引デバイス

——東日本大震災直後には、災害時に必要なアイデアを集めたサイト「OLIVE(オリーブ)」が話題となりましたね。

太刀川:そうですね。3.11は大きな契機でした。社会のためにデザインができることは何かを突きつけられた体験だったと思います。そのころから社会全体で、領域を超えてものづくりをしていく機運も高まっていきましたよね。NOSIGNERも、だれも居ないところに穴をほっていたら、気づいたら時代の真ん中が求めるようなデザイン活動になっていました。その頃には、プロダクト、グラフィック、ウェブ、スペースといった多岐にわたるプロジェクトが多くなり、それぞれの領域で専門性の高いスタッフが集まってきていたので、運動として始めたNOSIGNERを法人化したんです。それからだんだんと、デザインコンサルティングの案件が増え、現在はデザイン戦略を通して企業や組織の方針を一緒に考える、ソーシャルなデザインファームになっています。

――OLIVEのように、新型コロナウイルスにあたって開発された「PANDAID」というプロジェクトも共同編集ウェブサイトなんですよね。

太刀川:NOSIGNERでは、クライアントワークだけではなく、デザインや創造性を生かして社会課題を自ら解決するプロジェクトも行っており、「OLIVE」や「PANDAID」もそのひとつです。

おっしゃるとおり、有志のみなさんが共同編集するPANDAIDには医師や編集者など100名以上のボランティアが参加し、それぞれが専門性を発揮してくれています。

感染症の基礎知識から予防法、体力の維持やリモートワークのノウハウ、自宅での過ごし方、助成金情報までさまざまな知識が集まっています。

誰が見てもわかりやすいよう、デザインの力を最大限活用してインフォグラフィックやソーシャルディスタンスの重要性を伝えるポスターなどを独自に制作しています。

クリアファイルがあれば30秒でできるフェイスシールドもPANDAIDの一環で作成しました。型紙はサイトから無料でダウンロードしていただけます。

また、ソーシャルディスタンスを楽しいものにする「LIFECOINステッカー」や「SOCIAL HARMONY」は横浜の酒屋さんで利用いただいたり、news zeroで取り上げていただいたりしています。

社会の課題をいち早く察知し自発的に行ったプロジェクトで多くの関心を寄せていただいているのは本当にありがたいなと思っています。

ーー現在はデザイン戦略を通して企業や組織の方針を一緒に考える、ソーシャルなデザインファームになっているとのことですが、その後の変化はいかがですか。

太刀川:僕たちに対するクライアントからの期待は必然的に大きくなっていきました。制作会社はクライアントに対する発言力が低いことがありますが、NOSIGNERは経営者と伴走し、クライアントをどのような未来に導いていくのか、そのためにはいまどのようなデザインが必要なのかを考えるため、かなり責任ある意思決定に関わることが多い。大変ありがたいことなのですが、スタッフ個々人の責任もそのぶん大きくなり、意識の高さが問われます。可能性のあるスタッフしか取っていないつもりではあっても、弊社に入ると社会人としてはまだ駆け出しの頃から、企業や行政の意思決定者とやりとりすることあります。しかも、何よりプレーヤー兼監督である私としては、チームで一丸となって世界で最高のものを作りたいと思っていますから、そのぶんデザイナーにとっては、クオリティ面もコミュニケーション面も高い水準を求められるので、負荷も多くなります。そもそも、いいものを作りたいと探求しているプロフェッショナルなマインドを持った人しか勤められない事務所ですし、そういった彼らを僕も尊敬しています。いまチームはとても良い感じで、高い意識と能力を持つ素晴らしい仲間に恵まれていると実感しています。一人ひとり、本当に特殊で貴重な人財だなと思っています。そこで色々考えて、新しい制度を作ることにしました。「給料を増やそう」と。

災害時に有効な知識を集めて共有するwikiサイトをもとに発行された本『OLIVE いのちを守るハンドブック』(NOSIGNER編、KADOKAWA、2011年)

東京都が660万を超える全世帯に配布した防災ブック『東京防災』(東京都総務局総合防災部防災管理課、2015年)。

デザイナーの給与を引き上げる「プロフェッショナル制度」

——それが「プロフェッショナル手当」ですね。どのような制度なのでしょうか。

太刀川:私は、クリエイティブな仕事をする人が、社会の価値をつくっていると思っています。でも、デザインや映像の制作会社にいるからブラックなのは当たり前、みたいな風潮がありますよね。やりたいことだから給与は低くても当たり前というのはおかしいですよ。しかも、弊社はただでさえ責任ある仕事が求められるし、やっぱりデザインは、新しいものをつくるために絶対に必要な能力です。そんな能力を持っている人たちを高く評価したい。そう考えて、プロフェッショナル手当をはじめました。この制度は、デザイン職は基本給の20%を給与に上乗せするものです。創造性を発揮してくれた仕事に対して、きちんと報酬で感謝を伝えることは、社員にとっても行動を考える指針になるのではないかと思ったんです。「つくる」ことに携わる人たちを応援する仕組みを、この会社から発信したい、という思いもあります。世界中が新型コロナウィルスで大変な状況ですが、あえて逆に給料を上げたらいいかなって。

——自社の制度自体もデザインし、社会に提案されているのですね。NOSIGNERではさまざまなデザイン領域の社員が働いていますが、どのようにチームを組んでいるのでしょうか。

太刀川:案件ごとに、その分野が得意な人・興味がある人が集まってチームを組んでいます。新しい仕事が始まると「こういう仕事が始まります。興味ある人~!」と周知して、そのときに手を挙げた人でなるべくチームを組むんです。野球が好きな人は球団のブランディング、伝統産業に興味がある人は地域のプロジェクトというように、興味のある案件に積極的に関わってもらうようにしています。

——そのほうが仕事の受け取り方も変わりますよね。

太刀川:NOSIGNERのプロジェクトに共感して、自分ごととして工夫ができる人がいいですからね。NOSIGNERでは、自分を成長させたいと常に考えているような人を求めています。また、その人固有のスキルを持っている人も歓迎です。例えば3Dのモーショングラフィックが得意な人が、グラフィックデザインはもちろん、建築のパースやプロダクトのモデリングなどに映像表現を取り入れられたら、もっと面白い表現ができそうだ、とか。趣味として極めているという人も、それが社会に機能するならば積極的に活用してもらいたいと思っています。これから話をする水迫と青山もグラフィックデザイナーですが、水迫はイラスト、青山は本づくりが得意で、仕事にも生かしてもらっています。

時代の変化に対応できる、プラスワンのスキル

シニアデザイナーの水迫涼汰(みずさこ・りょうた)さんと、グラフィックデザイナーの青山希望(あおやま・のぞみ)さん

——水迫涼汰(みずさこりょうた)さんと青山希望(あおやまのぞみ)さんにもお話を伺っていきたいと思います。プロフェッショナル制度が導入されて、仕事への取り組み方などは変わりましたか。

水迫:最初に話を聞いたときは、率直に、身が引き締まる思いでしたね。チーム内での仕事の分担について話すときも、これまで以上に主体的に動くようになりましたし、空気が変わった印象があります。

 

青山:「給与が20%アップする」と聞いても、最初はピンとこなかったのですが、家に帰って計算したら「こんなに上がるんだ!」と驚いている自分がいました(笑)。個人が昇給するのとは違うため、みんなで喜べるのもこの制度の良い点だと思います。

 

水迫:弊社にはもともと評価が反映される仕組みがあります。私は「シニアデザイナー」という肩書きでチームをまとめているので、シニア手当も支給されています。さまざまな側面から評価をしてもらえる環境で仕事ができていることは、日々のモチベーションに繋がっていますし、週休2日、残業手当、ボーナスのほか家賃補助などの福利厚生も、他のデザイン企業と比べても高い水準だと思います。

——お二人はどのようなきっかけでNosignerに入社されたのですか。

水迫:銀座にあるギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催されていたNOSIGNERの個展がきっかけでした。Twitterで代表の太刀川が発信していた考え方が、自分が持つデザインの興味・価値観にとても近かったんです。即戦力として働けるところも魅力的でした。僕の場合、初めはインターンとして応募し、その後に新卒で入社しました。

 

青山:私は昨年に中途入社したのですが、前職はエディトリアルデザインの事務所に所属していました。NOSIGNERは前職の会社と比べて、新しいことへ積極的に取り組むフットワークの軽さを感じます。オンラインミーティングで連携を取るなど、効率性を重視して働けます。また、これだけさまざまな専門性を持つデザイナーが、一つの事務所に集っている事務所も少ないと思います。

 

水迫:それぞれの観点でリサーチしたり、ディスカッションすると、全然違う視点が共有できて面白いよね。それが自分の気づきになるし。

 

——これからNOSIGNERで、どんな人と一緒に仕事がしたいですか。

青山:臆せずに、自ら前に出て物事を進めていける人がいいかもしれません。

水迫:コミュニケーションがやはり大事ですね。あとは先ほど太刀川が話していたように、その人独自の強みがある人はいいのかな、と思います。社内ではそうしたスキルを持っていると、評価に直結しますし、仕事にも生かされます。今回の制度も含め、弊社はここ数年だけでもどんどん進化し、強力な武器を携えた『アベンジャーズ』感が増しています(笑)。ぜひ応募いただき、積極的に持ち味をアピールしていただきたいですね。

●NOSIGNER株式会社
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