――グラフィック、特にエディトリアルを中心としたデザインに携わるようになるまでの経緯を教えていただけますか。
社会人を4年間経験して、桑沢デザイン研究所に入りました。もともとプロダクト専攻で入り、1年生の後半くらいからグラフィックが楽しくなってきて方向転換しました。グラフィックデザイン研究科3年時の1973年、「銀花」という雑誌から割付用紙を割り出す、という授業を受けたのがきっかけで、エディトリアルデザインに興味を持つようになりました。
――工藤さんのデザインにおける、最も大きなこだわりはなんでしょうか。
感性よりも理論でデザインすることです。理論といっても難しいことではなく、著者の背景や書籍内容、時代性といったファクター(要素)を積み重ねていくということです。つまり、デザインの根拠を徹底的に見つけて構成していきます。ファクターは好み、人となり、書籍内容といったことをその書籍の著者や編集担当者にインタビューをすることで見えてきます。私のデザインの根幹は多様なファクターをチェック・分析し、それらをタイポグラフィやビジュアルにおとし込むコンセプトです。もちろん、全く感性を取り入れない訳ではありません。この20年くらいは自分のデザイン・テイストのフィルターを通して昇華させることにより、結果として感性で仕上げた作品にもなります。
――すべての作業に理由があるのですね。
そうですね。ファクターを理論的に積み重ねていくことで、簡単には崩れないポリシーをつくるようにしています。理由のないこと、思いつきで作っていくことはないです。実際、全てに理由があるデザインが一番強いです。もともと機械や数理学に関心があったこともあり、論理的な思考を重要視するタイプなんですね。
――ファクターをビジュアルに落とし込んでいく際には、どのようなことに気遣っていますか。
手書き作業で考えていくようにしています。今はサムネイルから拡大して原寸の指定紙を作成し、スタッフに渡して、「InDesign」で作成してもらっています。ずっと手描きのサムネイルで作業してきたこともありますね。地と図の配置のリズムを左脳と右手の感覚で描いていきます。もちろん、どんな本で、どんな内容で、といった前提を頭の中で考えながらです。書体もサムネイルを書きながら決めていきます。つまり、ほとんどサムネイルの段階でアイデアを集中してデザインを決定し、パソコンはあくまで道具として使うのが良いと思っています。
――なぜ手描き作業が重要になってくるのでしょうか。
紙面のルールがないアドバタイジングとは異なり、ブックデザインは本文の天地、ノド、小口という版面の設定から、段組があり、ジャケットは表1、表4、袖があり、製本様式もあります。そして縦組み(右開き)か横組み(左開き)か、といったようなルールがあります。そういう物質的な特徴によって読者の視線の流れが異なるのです。例えば、縦組み(右開き)の本では1番最初に目が行くのは左ページの上になります。したがって、そこにいちばん良い写真を持ってきたり、大事な文言を入れていきます。また、視線の優先順位だけでなく、紙媒体としての手触りや紙面、インクの匂いなども同様に感じ方が様々にあります。そういった五感に与える生理的なものを生かしていくためにも、手書き作業で実践しながらデザインします。
――工藤さんのレイアウトでは、余白の作り方に空間を感じます。プロダクトデザイン出身ならではの感覚があるのでしょうか。
そうですね。グラフィックデザインは平面ですが、レイアウトを決めていく作業では、遠近感としての空間と時間を意識しています。視線の動きにあそびを持たせ、ひとつの方向だけに移らないようにする。その反面、一定の視覚的なリズムをつくる。リズムをつくるというのは、読者はどこをどう見て、著者はどこを最も意識していているのかを視覚的にコントロールしていくこと。そういったことを考えながら、図版やテキストとの余白を強めたり弱めたり、紙面を演出していきます。文字の組み方、レイアウト、空間、スペーシングの考え方で、縦横左右の紙面の中での視線の動き方を考えつつ、書籍の内容、伝えたい優先順位を読者にメッセージするようにしています。
「文字組をデザインする。」ファクターの骨組みにより、崩れないデザインつくる――前編では、工藤さんのデザインへのこだわりについて伺った。後編では、時代背景によるデザインの変化について焦点を当てていく。