──まず、どのようなお仕事・ご活動をされているのか教えてください。
学生のときからフリーランスで仕事をしていて、フリー歴は9年目になります。クライアントワークとして、CMや映画など3DCGのキャラクター・デザインやデジタル・スカルプトをつくっています。それと並行して、作家としてアート作品の制作をしています。
──クライアントワークは、どういうお仕事をされていますか?
Netflix『パシフィック・リム 暗黒の大陸』をはじめ、映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』やドキュメンタリー番組『NHKスペシャル』の恐竜の回、アニメ『ジョジョの奇妙な物語』、『東京喰種トーキョーグール』などですね。CMだと、「カロリーメイト」やトヨタなどをやっています。
──作家活動はいつからされていますか?
2018年から立体造形の制作を始めて、2019年はニューヨークや京都の清水寺で展示をさせていただいたり、今年はサンフランシスコやプラハで展示を、来年は春にルーブル美術館での展示や東京で個展をするつもりです。立体造形といっても、主にCGを前提に使っていて、それを3Dプリントして、ペイントしたり要素つけたりして仕上げています。
──作家としての活動とクライアントワークは、どういう分け方をしていますか?
クライアントワークは人の作品なのであくまで仕事という半分割り切った気持ちで、自分の作品はもう自分のつくりたいものをつくっているので、気持ちのベクトルが全然ちがいますね。
──それはどういう意識が働いているのでしょうか?
自分の作品は、自分が抱えている哲学やテーマを伝えたい、表現したいと考えていて、実在している動物から派生した生物や自然物などをつくっています。もともと、自然界の裏に働いている仕組みに興味を持っているんです。その自然界のアルゴリズムを再現するためにCGやシミュレーションを使って、アートとして表出させています。自分の中にある世界の捉え方や、ものの考え方は一貫しているので、それを落とし込んでいます。
──デジタルハリウッドに入学した頃から、フリーとしてのキャリアプランはできていたんですか?
デジタルハリウッド東京本校(以下デジハリ)に通っていたのは大学2年のときでした。大学は美術大学じゃなかったし、何かしら手法を身につけたいと思って、CGコースを選びました。デジハリを卒業したときは大学卒業まで1年くらい時間があったので、その間に自主制作もできたし、少しずつ仕事をもらえて一人前のフリーになるための助走期間がとれました。だから、プレッシャーや不安は本当に一回も持ったことないです。楽観的だったのかもしれないですが(笑)。
──フリーという選択肢を選んだ結果、ご自身に合っていると思いますか?
合っているとしか思えないですね(笑)。やっぱりいちばん楽しいときって自分の作品をつくっているときですし。フリーランスだと、仕事とアートに費やす時間の管理が自分でできるので、むしろ就職できないなと思います。遊ぶ時間がほしいし、いろんなものを見に行く時間もほしいし、自分の作品つくる時間もほしいし、ちょっと仕事する時間もほしい。そのバランスを自分ですべて決めるには、フリーか会社設立しかない。だから最適ですね、僕にとっては。
──最初からアーティストになると決めていたんですか?
もともと自分が表現すべき者というか、人生の中でこれを表現しないと死ねないなみたいなものは最初からありました。ただ、手法をどうするべきか最初はわからなかったので、とりあえず最初にやってみたのがCGでした。実際に学んでみると、めちゃめちゃ相性がいいというか、はまりましたね。ある程度のレベルまで行ったら、自分の好きなジャンルであるクリーチャーやキャラクター・デザインやデジタル・スカルプトに移って、仕事でも一通りやったなあって思って、そこからアートをやり始めました。
──アーティストになりたくても生活ができなくて、デザイン事務所に就職する人は少なくありません。しかし森田さんは最初からフリーとして仕事をされている。ブレイクスルーのきっかけとなったポイントはどこでしたか?
どこかの時期が大変だったとかはないですが、最初からずば抜けて技術があったとかでもなく。多分、僕は単純に大変だとは思わなかったんですね。メンタルがしっかりしてれば、大して稼げなくてもフリーは続けられると思うし、幸せになれる人もいると思います。だから多分、会社に就職しようか悩んでいる時点で、会社を選んだほうがいいかと。
大学当時を振り返って思うと、表現欲求があるか、そういうもので突き動かされているか、が大切でした。「生活のために仕事頑張らなきゃ」なのか「自分のつくりたいものをつくって満足したい」か、どちらのモチベーションのために頑張るのかの違いですね。
──メンタルの強さも重要なんですね。
フリーって「何があっても大丈夫」くらいの気持ちがないと、多分ずっとは無理なんです。気楽でいることがいちばん重要だと思いますね。気を張っていても仕事が来るわけじゃないので。それから、自分のアウトプットが人に見てもらえる環境にあるかどうかも大事ですね。例えばSNSで見てくれる人を確保できているかどうか、フォロワー数がある程度いてアプローチできるかとか、人脈が十分にあるかどうかとか。そういうのも最初は重要になってくると思います。
──最終的なキャリアデザインは、どのようにお考えですか?
基本的に自分の作品で食っていきたいというか、作家一本でやっていきたいです。ちょっと漠然としているのですが、例えば渋谷駅前のハチ公のような、待ち合わせ場所のようにみんなに共有されて残るものをつくるのがゴールですかね。パブリック・アートのようなランドマークを建てたい、というのが目標の一つです。あと、立体造形に特にこだわっていなくて、自分の世界観を様々な媒体を通して表現していきたいので、今後はVRやARもやっていきたいです。そのために、クリアしなくてはいけない課題がありますが、そのためにはこれからもフリーランスという働き方でワークライフバランスを自分で管理しながら作品を作り続けていきたいです。
1991年、愛知県生まれ。本科CG/VFX専攻。クリーチャーアーティスト/デジタルアーティスト。大学と専門学校のダブルスクールを経て、在学中に世界的なCGコンテスト「CG Student Awards 2013」で第3位を獲得。現在は国内外の映画・CM・ゲームのクリーチャーデザインやCGアセットを手掛ける。著書に『the Art of Mystical Beasts』。