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INTERVIEW
2024.01.15

“面白い”の土台を支えるロジカルで、ビジネスを創生する

「Job by 美術手帖」×「デジタルハリウッド」のコラボ連載企画「キャリアデザイン・プロジェクト」の第3弾。“面白くて変なことを考える会社”に勤務されている武藤さん。様々な企業のブランディングや企画提案などを行っているが、その軸となるのが、課題の発掘だ。ただ面白いことを考えるのではなく、いかに説得力のある面白い企画を生み出すのか。現在の仕事、そして今後の展望について話を伺った。

面白くて変なことを提案して、驚かせたい!

──まず、現在のお仕事内容について教えてください。

「株式会社人間」という企画の会社で、企業のブランディングや広告の業務をしています。この会社は「面白くて変なことを考えている」というコンセプトで、クライアントや社会の課題を変な企画とデザインで解決する会社です。特にわたしが担当しているのはブランディングの案件で、お客さんのメッセージを発掘し、磨いて、世の中に広めていく仕事をしています。 
当社はお客さんとの距離が近いのも特徴で、最初は広告の企画だけ依頼いただいたはずが、採用や社内コミュニケーションなどインナー・ブランディングに関わっていくことも多々あります。クライアントは鉄道やテレビ局、大学、自治体、NPO法人など様々で、当事者では考えられないような突飛なアイディアを期待してご相談いただくということが多いですね。逆にアイディアが完成されていて、「これをつくってほしい」というような制作だけの依頼はめったにありません。

──最近の具体的なお仕事の事例を教えていただけますか?

聴覚障害者団体がクライアントの「Clear Mask Project」というプロジェクトがあります。今はコロナ禍でみんなマスクをしていますよね。そうすると、聴覚障害者の方は相手の口元や表情が見えず、何を言ってるのかわからない。さらにいうと自分が話しかけられたかどうかもわからないし、もしかすると自分が無視してしまった場面があったのではないかと想像して、心理的にも辛く、学校や職場で孤立している問題があるんです。「そうやって困っている人がいることを世の中に広く届けたい」とご相談をいただきました。

「Clear Mask Project」プロジェクト

この問題は「聞こえる人」にはあまり知られていないと思います。わたしもご相談いただくまで知りませんでした。 
まずこの問題を「無関心な人に知ってもらうにはどうしたらいいか」という視点で企画を考えました。そこで生まれたのが聞こえない日常を体験するイベント「爆音コンビニ DEAF-MART」です。

爆音コンビニ DEAF-MART 特設サイト https://clearmask.silentvoice.co.jp/bakuon/

声をかき消すほどの爆音*が流れる店内で、買い物をしてもらえる一日限定のコンビニを作りました。 
声のコミュニケーションを遮断したら、どんな気持ちになるのか?どんな時困って、どうなったら嬉しいのか?実際に体験することで当事者の気持ちに気づくことができるイベントです。 
ただ真正面から「困ってます!」と声をあげても関心のない人々には届かないので、「爆音コンビニ」というおもしろコンテンツを打ち出して、「知ってもらう」というお題を達成しようと企画しました。イベント自体は先日無事終わりまして、現在、イベントの様子をまとめた記録映像を制作中です。面白さと伝えたいメッセージを映像に共存させることで、イベントに参加できなかった方に向けての拡散も狙っています。

*専門家指導のもと、会話が聞き取りづらい音源を制作し「音量100db以下、体験時間15分以内」の基準で参加者・スタッフの健康には十分配慮いたしました。

「爆音コンビニ」イベントの様子

──武藤さんはブランディングという立ち位置で関わっていらっしゃるのですか?

メッセージをどう広めていくかという設計部分を一緒に考えています。このプロジェクトでは、大きく3つの「関心の山」を作っています。1つ目は11月にプロジェクトをリリースしたとき。プレスリリースでの発信や、「爆音コンビニの参加者募集」という形で山をつくりました。次にイベント当日に参加者の生の声による発信や、取材メディアに取り上げていただくタイミングです。最後はイベント実施後、テレビで放送されたり、今作っている記録映像がリリースされる時に、もう一度認知してもらうチャンスを作っています。

──その他のお仕事についても教えてください。テレビ局の採用ページのコンテンツも話題になっていますね。

これはわたしが入社当時に携わった案件ですね。株式会社毎日放送(MBS)の人事局がクライアントです。新卒採用においてテレビ業界の人気が落ちている中、毎日放送の魅力や姿勢を学生さんに伝えていきたいというご依頼でした。本当はベンチャー精神のある面白い企業なのですが、「テレビ業界って古いんじゃないか」という印象を拭えずに困っていらっしゃいました。 
このお題に対して、最終的に決まった企画が「屋台人間 人事前田」という対談記事の連載企画です。

毎日放送リクルートサイト https://www.mbs.jp/recruit/

MBSの人事担当が、IT業界など他業界のキーマンに悩み相談に行くという記事コンテンツです。ただの対談記事では学生さんは読んでくれないので「屋台人間」という変なキャラクターになって各社のオフィスに伺いました。

──実際の採用担当の人を屋台の人間としてはめ込む、ということでしょうか?

そうです。採用担当の前田さんを緑色に塗って屋台に合体させました。 
実際に対談する企業さんのオフイスに屋台のセットを持ちこんで、お酒こそ飲みませんでしたが、おでんを食べながら対談をするという企画です(笑)。おでんの香りで酔っ払ったのか、皆さん本音を語ってくれました。「そうはいってもテレビはすごいですよ」とテレビの可能性を言ってくれる人もいれば、「このままではいけないよ」と課題をビシっと指摘してくれる意見もありましたね。普通の採用サイトでは自社のいいところばっかり掲載するんですが、毎日放送のリクルートサイトでは本音の話をそのまま掲載しています。学生さんが知りたいのも絶対本音だと思うんで。

「屋台人間」

この企画を実施したことで、ダイヤモンド社の「就職人気企業ランキング」で前年度ランク外から2020年は56位まで急上昇し、クライアントの毎日放送さんからは感謝いただきました。一年目がかなり好評だったので二年目の今年も継続して行いました。

──結果につながったというのがすごいですね。

目に見える形で結果を出すことができ、よかったなと思っています。

仕事の軸は、課題の整理という幹をしっかりつくることから

──デジタルハリウッド在学中は、どのような授業を受けていましたか?

僕はWebデザインを学ぶコースにいましたので、イラレなどを使ってデザインをする授業が半分と、コーディングを学ぶ授業が半分でした。卒業制作では、クライアントを自分で見つけて、そのお店のウェブサイトを実際に制作するのをやりました。当時、僕の妻が発達障害の子どもたちの音楽教室事業を立ち上げたばかりだったので、妻をお客さんにして教室のWebサイトを作りました。卒業制作ではクライアントの課題をヒアリングし、Webサイトがどういった解決策になるのか。そういった企画書作りも行いました。この音楽教室では「集客」を改善したいというお題でした。体験レッスンを受けてからの契約率が高かったので「体験レッスンを受けたくなるサイト」をテーマにWebサイトを作りました。デザイン面などは、手作り感満載のWebサイトになってしまいましたが、課題設定から設計の部分は評価いただき手応えを得ることができました。

卒業制作「ツナガリMusic Lab.」https://www.tsunagari-music.jp/

──デジタルハリウッドで学んだことが、現在、具体的にどのようなところで役に立っていますか?

何度も出てきましたが「課題をどこに置くか設計をする」業務に今も活きていると思っています。ディレクターは、お客さんと近い距離で、現場で起きている問題を一緒に考えることができる仕事です。そしてお題を見つけ出し、企画で解決する。デジタルハリウッドの卒業制作で、上流部分から制作まで全部を経験した上で、自分の好きなところを見つけて仕事にできたのは良かったです。

──”上流の部分“は、まさに卒業制作でも評価された部分ですよね。そういう意味では、卒業制作での成果と、現在のお仕事の強みがリンクしますね。

そうですね。うちの会社のようにチームで制作するときにもお題の設計は大切だと感じます。当社は「余計なことをする」文化があって、頼まれないことも勝手にやったりするんです。デザイナーも企画しますし、アルバイトが勝手に企画書を持ってきて、それが採用されたりもします。社内で大喜利しかけあうんです。

ただ、余計なことを闇雲にしていると、収集がつかなくなるんですよね。その企画がちゃんと課題解決につながるのかどうか判断するには、最初のお題設計が大切です。なので面白い企画を考える土台には、真面目でロジカルな設計のフェーズが必ずあります。 
──確かに、幹がしっかりしていると、枝葉を広げやすいのかもしれないですね。

そうですね。お客さんは面白い企画のその先にある結果を期待して予算をとってきてくれていますので、提案する企画が結果につながるロジックは大切にしています。アウトプットはただ面白いだけに見えたとしても、それをつくるまでの道のりは論理的だったりします。(思いつきな企画もありますけど。)

「デザイン×福祉」──新しい掛け合わせを生み出していきたい

──今後、武藤さんが目指したいことはどのようなことですか?

卒業制作や「Clear Mask Project」のお仕事もそうですが、福祉の分野が好きなのでもっとやっていきたいですね。社会にイイコトというやりがいもありますが、それよりもこの分野には伸びしろがあるって思っていて。 
もしかしたら共感していただけかもしれませんが、「発達障害のある子たちの音楽教室やってるんですよ」と言うと、優しいねとか、思いやりのあることやっているねと言われることがあるんです。でも、わたしとしては、単純に面白いからとか、子どもたちが変化していくのが楽しいとか、素直な動機でやっていることが多いんですよね。この当事者と外部との、視点のギャップがまだまだ大きい。その分「伝える」ことで業界がもっと面白くなると、私は思っています。おもしろい・かっこいいから一緒にやりたくなる、もっと内側に入っていきたくなる。そんな表現で福祉のまだ知られていない魅力を伝える仕事を、今後もっとしていきたいなと思います。福祉以外でも、デザインが関わってこなかった業界の方と組んで、業界や社会が変わっていくのを一緒に楽しめたらいいですね。

  • 武藤崇史

    1989年、愛知県知多市生まれ。株式会社人間のパワーディレクター。川崎重工でエンジニアとして勤務後、広告業界に転職。主に企業のブランディング案件を担当。2017年より発達障がいのある子どもたちの音楽教室「ツナガリMusic Lab.」に携わっている。Twitter:@d_tsunagari